人というものがこの世に生まれて
それらと同じ瞬間に、同じ数だけ生まれる存在があった

A fairy of the heal sorrow

人々を紡ぐ、小さな妖精の物語



パタパタパタ
その小さな生物は俺の前で何度も羽ばたいて見せた。大げさに言わなくても、見た目はかなり神秘的だ。
「どう?信じられた?」
「いや無理。俺の眼か頭がおかしくなったとしか思えねえ」
笑顔を向けていた彼女は、俺の一言で一気に落胆した様子だった。
「なんでかな・・・」
そうやって残念そうな顔を向けられても、仕方のない事だと思う。
今時の中学生が、きょうび『妖精』なんてものを信じるだろうか。多分、というか確実に無理だろう。
「わかった。仮にお前のような不気味な存在を認めるとしよう、仮に。
 どうして俺に憑くんだ?俺はお前らに恨みを買うような事をしたのか?」
これだけ小さいと、気付かずに何人・・・・・・いや何匹か踏みつぶしている ということもあり得そうだ。
「憑くって・・・・・・霊体じゃないんだしそんなこと出来るわけない…」
いやむしろ、霊体ならできるんだろうか?ここはツッコミを入れるところか??
「理由は特にない。あたしの相手がたまたまアナタだっただけ」
「・・・相手?」
「妖精一人につき人間一人。成人になる前には必ず誰かに出会うことになってる。  言うならば運命ね」 どうしよう。これがもし自分の妄想というか想像なら、頭がやばいとしか思えない。 この歳で精神病院というのは…。 表情に出たのか、彼女は溜息をついた。 「あぁ、うん。大抵の人間はそうだから……。  とりあえず今は信じてくれなくていいよ」 「っておい、肩に乗るな!他の人に見られたら確実に変人扱いされるだろ!」 「大丈夫。他の人間はあたしを認知できないから。  ルルっていうのがあたしの名前、アナタは?」 「……………ユウ…」 家の庭で見つけたその生物は、その日から俺に最も近い存在になった。 自分以外の人間には見えない。というのは、どうやら本当らしいと言う事がすぐにわかった。 俺の肩に乗っていようが頭の周りを飛び跳ねようが、誰も見向きもしない。相当な異常事態だ。 必然的に、ルルと話すのは一人になった時。ついでに言うと、公園に来た時が多くなっていた。 「・・・歌?」 「『詩』よ。 妖精っていうのは、一人一人に特別な『詩』がある。  人を癒す詩であったり、勇気づける詩であったり・・・・・・」 何故かうっとりした口調で話す彼女を、つい鼻で笑ってしまう。 「ふーん」 「・・・何?また信じられないの?」 「まぁね。これでも現実主義者なんで」 彼女は怒ったような顔になったが、また溜め息を付いて気を落ち着かせたようだったそんな様子が、ちょっと可愛い。 「そんな言うんならさ、詩ってみてよ」 そう言うと、明らかにルルは固まったというか困った顔になった。予想外の反応に、逆にこっちが困る。 「・・・なんだ、歌えないのか」 「う、歌えるわよ! ただ・・・・・・あたしは上手い方じゃないから・・・」 今まで何度か、練習してくるとか言って姿を消す事があった。その成果は出ていないのだろうか。 「良いから、やってみろよ。聴いてやるから」 「・・・わかった・・・・・・」 しぶしぶといったご様子。 どう見ても乗り気じゃないんだろう、羽根がいつもとは違い萎れてる感じもする。 「ん・・・、ぅん」 彼女は両手を胸に当て、静かに眼を閉じた。僅かに身体を揺らし、自分なりのリズムでも取っているのだろうか。 こうしていると、別人のように見えてくる。 いつもは俺の苦手な事や駄目な事をうるさく言ってくる存在なだけなのだが、今はもう、妖精だ。 名前の通りに見ていて惹きつけられるような、そんな空気を発している様な気がした。 ・・・・・・だがそんな空気は、彼女が声を発するまでの数秒の間だけだった 「―――ア゛〜」 「ちょっと待て」 正に声を出した瞬間。我ながらによく反応出来たと思う。 やはり妖精なんてもんじゃない。今の音は……そう、あれだ。アヒルの鳴く声に似ていた。 「あれが妖精の歌声ね。うん、もう十分すぎるくらいわかったわァ」 「うるさいな……。もう良い、もっと練習していつかユウのこと驚かせてあげるから」 「いや無理だろ。前からかなり練習してるくせにぜんぜ……」 「あれ、ユウ君だ」 突然に背中から名前を呼ばれ、思わず飛び上がりそうになった。 堪えたものの、思わず背筋がピンと伸びる。振り返ると、、 「あぁ……なんだヒナか…」 思わず脱力する。同世代のやつならともかく、この気の抜けたような女なら大丈夫だろう。 「なに、この子ユウの彼女?」 いつの間にか肩に乗ったルルが俺の頬を突いた。 ヒナには見えてないはずだが、それでも腹が立つ。あとで踏みつぶしてやろうと思った。 「こんなところで何してるの?何か言ってたみたいだけど」 こんなところ。というのは公園の隅のベンチである。一番人が来難い所を選んだのだが、甘かったようだ。 「いや、別に……」 「あ、わかった! ユウ君も妖精さんとお話してたの?」 思わず息を飲む。まさかこいつ……見えてる…? 「…妖精ってお前……頭大丈夫か?」 なんとか平静を保ちつつ、出来るだけいつもの調子で返した。 「えー、いるよ妖精さんは。  一人に付き一人、必ずいるものらしいよ?」 普段なら腕を引っ張って精神病院に連れていくが、生憎俺も同じ状況なのでそうも出来ない。 とりあえずヒナも、完全に知っているようだった。 「アル、久し振り」 ルルがヒナの肩辺りに向かって手を振っていた。俺には見えないが、ヒナにも憑いているんだろう。 ヒナがアルと呼ばれた精霊(の方であろう)を見、そして今度は俺の方に顔を向けてくる。 「わー、これでユウ君も精霊仲間だね!」 ……厄日だな、今日は…。 ヒナの精霊はアルというらしい。説明通りに俺に彼女は見えなかったし、また触る事も出来なかった。 逆にヒナもルルを見れないし、触れもしない。 ヒナがアルと出会ったのは何年も前で、かなり仲が良いらしい。そういう様子は見ていてよくわかった。 「でも精霊と仲良くなったってなー。良いことあるか?」 「一緒にいて楽しいよ。それにほら、寂しくなくなるし」 うんうん、とルルも隣で頷いている。 …なんかこいつら、凄い勢いで仲良くなってるな。ヒナが変人なだけだろうか。 「あとは……詩なんて凄く綺麗で心が癒されるでしょ?」 「そうだなー、アッハッハー」 ルルの方に眼を向けると、彼女は素早く顔を背けて逃げた。悔しいのか泣いているのか、肩がちょっと震えている。 「…ん?」 笑い方に違和感を覚えたヒナが俺の顔を覗き込む。 「いや、なんでもないから」 にこやかな笑顔で返すと、ルルが叩いてきた。残念ながら手が小さすぎるので、痛くもかゆくもない。 「でも俺には妖精ってのは必要ないな。いてもあんまし良いことないし」 「またそんなこと言って……。でも、そっか、ユウ君てお姉ちゃんっ子だもんね」 ここで下手に言い返すと色々言われかねないので、溜息をついて冷静になろうとした。 「ユウってシスコンだったんだ」 駄目だキレそう。この小生物、あとでミキサーに放り込んでやる。 「・・・否定はしねーけど。妖精なんかよりはねーちゃんのが大事だな。  妖精ってほら、何も役に立たないのもいるだろ?」 ルルが今度は叩くどころか、蹴りを頬に入れてきた。 さすがにちょっと痛かったので、デコピンを喰らわしてやる。彼女はあっけなく地面に落下しそうになった。 「・・・そんなこと、ないと思うけどな」 ヒナは寂しそうに笑いながら、アルの頭を撫で・・・・・・たように見えた。 アルがヒナのためになっていて、ルルが俺に何も出来ないのなら、それは不公平のようにも思える。 でも恐らく、これが丁度良いんだろう。ヒナに親父がいないというのは前から知っていて、少し気になってはいた。 彼女は一人でいることに耐えられない、何処にでもいる普通の女である。 だから精霊とかいう不確かな存在とも、きっと親友として付き合っていけるんだと思った。 俺はただ、今までの生活にまったくの不満が無くて。 『妖精』っていう存在が今の環境を壊してしまうんじゃ無いかと、それだけが不安で仕方無かった。 ルルはさすがに怒ったのか、俺の元には戻らずにヒナの肩に降りた。俺も正直、そうしてくれるとありがたい。 「それじゃ俺は帰るわ。お前も程々にしろよ」 「あ、うん。また明日ねー」 明日も来い、と言っているつもりなんだろうか。その笑顔、怖いぞ・・・。 俺の妖精は、最後までこっちを見ようともしなかった。 家に戻ると、何やら姉と母親が忙しなく動き回っていた。服やら本やら小物やらをダンボールに詰め込んでいる。 「・・・何してんの?」 「あ、お帰り。ユウも暇なら手伝ってよ。  私の引っ越し準備ー」 姉の言った言葉を理解するのに、何秒か必要だった。それくらいに、今の言葉は頭に響く。 「・・・は?引っ越し?」 「そだよ。一人暮らし始めるって言ったでしょ?」 「聞いてないんだけど・・・・・・」 かなり前に、通学に不便だからとか言ってそんな話もしていた気もする。ただその時は、却下になったはずだ。 手伝って欲しいと言ってくる姉に、何も答える事が出来ずに部屋に戻った。 ベッドに飛び込みながら、意味もなく天井を見つめる。何も考えられずに、ただボーッとしていた。 姉は大学生で、バイトをしながら大学に通っている。何処にでもいる普通の人だし、俺の自慢の姉でもある。 勉強だろうと私生活だろうと、思い返してみると姉に頼り切りの自分がいたような気がした。 そういう存在が、もうすぐ自分から離れていってしまう。 寝返りをうつと、何故か目の前にはルルが座っていた。気付かぬうちに戻ってきていたらしい。 さっきの事で小言でも言われるのかと思えばそうではないようで、哀しそう顔で俺の眼を覗き込んでいる。 「・・・何かあったの?」 つまり俺は、他人から見るとそう思わせるような顔をしているのだろうか。 「別に・・・。お前には関係ない事だ」 「・・・・・・、そう・・・」 いつもとは違った様子で、彼女は俺の頭を撫でてきた。 それが思いの外不快では無かったせいなのか、それとも単に彼女を払いのけるのが面倒だったのか。 しばらくそうされたまま、俺は静かに眼を閉じた。 それからは姉と顔を合わせる事が出来なくて、ろくに話もしない日々が続いていた。 ヒナと会う事も無かったし、ルルもよく何処かに出掛けていていない事が多かった。 誰にも相手にされていないような孤独感。ヒナも子供の頃、よくこんな想いをしていたのだろうか。 彼女の場合はアルという妖精がいて・・・。今の俺には、その存在はない。 俺に愛想を尽かしたとしても、全然不思議じゃないと思う。やりすぎたという実感も、少しはある。 「・・・・・・・・・・・・、」 今日の夕刻、姉はいよいよ引っ越していなくなる。 手伝いをしなかった事を謝りたかったし、行って欲しく無いと、無駄だとわかってても言いたかった。 別にこれが、今生の別れということでもないだろう。それでも、話しておきたいことは沢山あった。 「ユウ」 前と同じように、ルルがいつの間にか部屋の中に戻っている。机の上に立って、こっちを見上げていた。 「・・・ん?」 「えっと、詩を・・・・・・聴いてほしい」 ちょっと恥ずかしそうにしながらも、妖精の眼はちゃんと俺の方を見ていた。凛としていて、ちょっと格好良い。 「悪いけど、気分じゃない・・・」 もしかしたら、アルの所に行って練習していたのかもしれない。最近姿を見せないし、その可能性は高い。 そういう意味で、申し訳ないとは正直に思う。でも、本当にそんな気分にはなれなかった。 「うん、お姉さんの事は聞いてる。まだ話せてないんでしょ?」 そう言われても、何も言い返せない。黙っているだけなのも嫌だったので、小さく頷いた。 「ちゃんとお別れが言えるようにって、そういう想いも載せて"唄う"ね」 ルルはまたあの時のように、姿勢を直して小さく息を吸い込んだ。眼を閉じ、少しだけ身体が揺れる。 ただ今回は、自信が溢れているような。力強さを小さな身体から見える様な気がした。 For you whom I stop in sometime   I continue singing forever now here...       小さな声なのに、その英語の詩は頭の底にまで響いてくる。 リズムも前とは違うものだったし、もちろん歌詞の意味だって全然わからなかった。 ただ凄く、美しい声で。このままずっと歌い続けて欲しいと、そんな風に 正直に思った。 ルルは唄いながら眼を開けて、俺の方に微笑みをかけてくれる。 まだ彼女との付き合いは、本当に短い。それでもこうして、今は一生懸命に唄ってくれている。 一重に、俺のためだ。 妖精一人に人間一人。彼女達妖精に、人間を選ぶ事なんて出来るのだろうか? 俺にはわかるはずもないが、もしその相手が嫌な奴だったらどうなるんだろう。 俺みたいに、存在を疎ましく思うような奴でも、それでも彼女は唄ってくれている。 いても何の役にも立たない、なんて言ったやつのために、ルルは笑いながら唄ってくれている。 小さな身体で、本当に頑張っていた。 詩が終わると、彼女は満足そうな顔で俺を見上げていた。ちょっと得意げになっているのがむかつく。 「どう?凄いでしょ」 「・・・あぁ、そうだな」 素直にそう言った俺に、彼女は不服そうにしていた。 「いや、本当に良い詩だったよ。何も出来ないなんて言って、悪かった」 「ん、よろしい。あたしという存在に感謝なさい」 「・・・・・・言いたい事は山程ある。けど悪い、ちょっと行ってくる」 返事を待たずに部屋を飛び出して、姉の元へ走って行った。今ならなんて言うか、素直に話せる気がした。 「・・・行ってらっしゃい」 ユウがいなくなった部屋で、ルルは静かに眼を閉じた。また、詩を唄い始めるためだ。 「そしてさようなら・・・ユウ。いつでもあたしは、アナタのために唄ってるから」 小さな声で詩を紡ぎながら、彼女の存在は静かに消えていった。 「・・・そうなんだ。お姉さん、行っちゃったんだね」 姉が出て行ったのが一週間前で、暇だったので公園に来てみると なんとヒナが俺を待っていた。 あれで約束した気でいたつもりらしい。俺が来た途端、凄い勢いで怒っていた。 「まぁ別に、会おうと思えば不可能じゃないしな」 「寂しくないんだ?」 俺の顔を覗き込んでくる彼女は、からかうというより心配をしてくれているようだ。 「・・・思ってた程には。別に一人ってわけでもないしな」 「私だっているもんね」 恥ずかしげも無く言うこいつから、思わず顔を背ける。一度こいつの頭の中を見てみたいものだ。 そんな事を思っていると、ふと疑問に思った事があった。 「・・・・・・なぁ、なんで俺達ってこんな所にいたんだ?」 「え、それはユウ君がここで・・・・・・。  ・・・何してたんだっけ??」 思い出そうとしても、何故かわからなかった。そんなに日数も経ってないはずなのだが、何故だろう。 「まぁ、良いか。何かあったんだろ、多分」 「うん、そうかもね。  ・・・・・・・・・んん?」 ヒナが突然、何かを探すように辺りを見渡す。釣られて周りに眼を向けるが、異常なものは何処にもない。 「ね、何か聞こえない?」 言われて耳を澄ませてみる。 ・・・。 確かに何か、小さな音が聞こえていた。いや、音というよりは・・・・・・。 「詩、か?」 「うん、詩だね」 周りには歌っている人なんていなかったが、確かにそんな声が聞こえていた。 かなり不思議な事なのだが、そんな事より 綺麗な歌声に思わず聴き入ってしまう。 それは誰かを想っているような、一生懸命で、美しい歌声だった。 〜〜♪ 小さな小さな英語の詩が、空に向かって響いている 妖精は眼を閉じて身体を揺らし、飽きもせずに毎日同じ言葉を繰り返す それは、運命の相手の幸せを願う詩 ある妖精は、彼女が幸せでいられるように願いを込めて、 ある妖精は、彼が哀しまないように願いを込めて、 昔も今も、そしてこれからも変わらずに 妖精達はずっと詩を歌い続けていく
-あとがき- 勢いで書いてしまった。今では反省の欠片もない。 書き終わって相方に、姉の引っ越すとこが唐突すぎてちょっと・・・ と言われますた。ショックでした。 まだまだ駄目だなぁ、と痛感するわけです。精進するしかないですよね|´・ω・) 今回も私の中では一つの挑戦となりました。前回の話を受けつつ、新しく物語を展開する。 いわば連載ものと言いますか、そう言ったことの挑戦になったと思います。 内容を言いますと、ヒナがユウと出会い、幸せの一端を見付けるまでの話になっています。 二人が妖精を忘れるまでの行き先、と言っても良いかもしれません。 補足ですが、最後のルルの存在が消えた。というのはユウの中からルルとの記憶が消えた という意味です。 ・・・補足しないと駄目な小説って、もう駄目な気がする・・・・・・。 やっぱり精進します。うん、まだまだダァ・・・(´・ω・`) おまけ、ルルが歌った英語の歌詞はこんな(↓)です。 『いつか立ち止まってしまう貴方のために  あたしは今ここで、永遠に歌い続ける』 詩の始まりなので、この後もちゃんと歌詞が・・・・・・いえ、考えてないですがね。 まったく英語が出来ないので、和英辞典使いました。 ・・・ぅう・・・・・・。 そいでは恒例のご挨拶をば。 いつも表紙を描いてくれるつちのやしろ氏、ありがとぅ。相談に乗ってくれるAさんも、凄く感謝しております。 そしてこの文章を最後まで読んで下さった皆さん、本当にありがとうございます。 これからも良い文章が書けるよう、精進していきたいと思いますので、なにとぞよろしくお願いします。 ではでは、次の作品でお会いしましょう。 Yuki.