孝明クンへ
こうして手紙を交換するのも、もう何年にもなるね
私が君から初めて手紙をもらった時の事、まだ鮮明に覚えてるよ
誰にも相手をしてもらえないと思っていたから、本当に嬉しかった
だから改めてお礼を言わせてね
ありがとう
それに、私の事を好きだって言ってくれて、ありがとう
私も孝明クンの事が大好きです。
・・って書いても、嘘っぽいかな? でも、本当だからね
これで両想い、って思って良いのかな
孝明クンは自分の事をよく悪い風に言うけど、私はそうは思わないよ
少し気が弱くったって、優しいし、頼りがいがある人だと思う
だからもっと、自分に自信を持っていこうね?
携帯電話ですが、色々悩みましたが買う事にしました
きっと使い方がわからないので、孝明クンが使い方を教えてね
それと、私もそろそろ遊べる時間が取れそうです
その時になったら、よろしくね
それでは、また
彼女からの手紙を二度、三度。読み直しては顔がニヤけてしまうのがわかる。
両想いだとか、その辺を見ると顔が熱くなった。
本田孝明、と言うのが僕の名前である。本当に何処にでもいる名前、容姿だと思っている。
性格は・・・彼女に言われたように、少し気が弱い所があるが、別に暗いというわけじゃない。
自分が優しい、のかどうかは正直わからないが、普通だと思う。
対して彼女、天海瑶子。
長い黒髪が印象的な、日本人的な美人・・・というより可愛い系の子。歳は確か、僕より一つ下だ。
性格はメリハリがあるというか、好きな事は好き、嫌いな事は嫌いだとはっきり言うタイプである。
基本的に優しい子なのだが、人に悪戯するのが好きだったり、髑髏っぽいアイテムを集めるのが好きだという。
とにかくまあ、僕の好みをストレートに表したような子なのである。
と言っても、彼女に直接会った事はない。
こうして互いに文通を何十何百としていっただけの、それだけの関係。と言ってしまえば、本当にそれだけだ。
そろそろ、三年前になる。僕が学校の帰り道に、黒い手紙が落ちているのを見付けたのだ。
内容は、この手紙を見た人は返事を下さい、住所はこれです。みたいなものだったと思う。
その頃は確か、海に手紙を入れたビンを流す事が流行っていたから、その延長線上の物だろう。
面白半分で手紙を出してみると、すぐに返事が来た。彼女との出会いが、つまりそれである。
携帯でのメールや電話が便利になった世の中なのに、手紙というが面白い。これも一つの「メル友」だろうか。
文通をしているだけで相手に好意を持てるのか。と思う人はいるだろうが、残念ながら僕は持ってしまった。恋の病である。
こんなことは普通、人に話せないことなのだが、僕は親友の一人に話してしまっていた。
今まさに隣りで本を読んで寝転んでいるのが彼、荒井だ。
同い年なのに新聞や本が好きな、ちょっと他にはないタイプである。
「顔がにやけてるとキモいぞ、孝明」
「うるさいな、しょうがないだろ」
病気だよ、と呟きながら荒井はまた本へと視線を戻す。
病気でも何でも良い。とにかく嬉しいのだ。これから会う日まではずっとニヤニヤしているかもしれない。
「彼女の名前、なんて言ったっけ」
「瑶子だよ。天海瑶子」
「・・・やっぱり何処かで聞いた事あるんだよな。結構前だけど」
初めて教えた時も、彼は確かそんな事を言っていた。
しかし、何処に接点があるのだろうか。彼女が住んでいるのは、僕らの町より少し遠い。
「本に似た名前が出てきた、とかじゃないの」
「・・・そうかもしれないけどさ・・・・・・」
彼はずっと、釈然としない様子だった。
それから、約一週間後。
その日は特に予定もない祝日で、荒井と遊び終わった、夕方だった。
彼女からまた手紙が届いた。まだ僕から返事を出していなかったから、少し驚く。内容は、酷く短い物だった。
孝明クンへ
080-xxxx-oooo
これが私の携帯番号です
もし良かったら、電話してきてね
胸が躍る。というより、緊張して声が出なくなった。
手紙のやりとりだけで、どんな声をしているのかは知らない。写真も送ってないし、送られてもないから顔もわからない。
それでも、いやそれだからこそ、緊張してしまうのである。
自分の携帯電話を見つめる。もう陽が落ちてきてしまった。電話を掛けるのは明日にしようか。
っと。
電子音が鳴り響いたのはその直後だった。
慌てて通話ボタンを押し、もしもしと声をかける。もしかして、と思った。
「荒井だけども、」
ガクッ と頭が落ちる。いや、彼女は僕の番号を知らないわけだから、冷静に考えれば当たり前なのだが。
「前言ってた孝明が熱を上げてる子の事なんだけどさ、名前が聞いた事あるって言っただろ?
それについてもうちょっとでわかるっぽいから、夜に電話して良いか?」
「いや・・・・・・その子からまた手紙が来てさ。携帯電話買ったらしいから、今からかけるんだ。
出来れば明日学校で教えてくれるか、メールで教えてくれ」
「はいよ。
それと、忠告な。あんまり本気にならない方が良いと思うぞ、俺は。
じゃあな」
数分にも満たない内容の電話。
しかし、本気になるな とはどういうことだろうか。名前だけで彼女について何か、わかったのだろうか。
そんなことより。
勢いで今からかけるとか言ってしまったわけで・・・・・・。
この時間ならもう、夕飯を食べているだろうか? 迷惑にならないだろうか。
そもそも僕みたいなヤツが、彼女に電話なんてして良いのだろうか・・・。
弱気になっている自分に気付く。彼女も、自分に自信を持てと言っていたじゃないか。
・・・掛けよう。
電子音が嫌に耳に響く。手からは汗が噴き出しているみたいだ。
たかが電話で・・・・・・。荒井なら笑うだろうか、それとも馬鹿にするだろうか。
『・・・はい、瑶子です。』
初めて聞く、彼女の生声。いや、電話越しだから生ではないか。
思っていたよりも少し低く、落ち着きがあった。聞き取りづらいというわけではなく、僕よりずっと年上の様に感じさせる。
『えっと、孝明だけど。本田孝明。初めまして、って言った方が良いのかな』
『孝明クン・・・? うん、初めまして。
電話、してくれたんだね。ありがとう』
『うん、今さっき手紙を読んでね・・・・・・。突然でビックリした?』
『ちょっとね。でも良かった、嬉しいよ。
・・・ふふ、孝明クンの声、かわいいね』
可愛い、と言われたら喜んで良いのだろうか。男としては、カッコイイと言って欲しいものだが・・・。
『実はね、私もちょっと孝明クンをビックリさせたくて・・・。
今、孝明クンの町にいます』
『――え???』
一瞬、声が詰まる。
彼女が、同じ町にいる?すぐ近くにいる?
『ふふ、ビックリした?会いたくて、来ちゃったんだ。
・・・こんな時間で申し訳ないけど、会えるかな・・・・・・?』
『うん、もちろん。今何処だかわかる?』
返事には迷わなかった。どうして突然ここへ来たのか、なんて事は考える余裕がない。
それよりも期待と興奮で、頭が一杯になっていた。
『えっと・・・・・・駅から歩いていって、さっき大きな公園を抜けて・・・。
今はなんだろう、バス停かな?そこに立ってるんだけど・・・』
『わかった、すぐ行くよ』
『―――あ。雨が降ってきたよ、傘は忘れないでね。絶対だよ』
彼女が言った直後、凄い雨音が聞こえた。夕立だろうか。
同時に、彼女が本当にこの町にいるという証拠でもある。
電話を切って、身だしなみを整えて、家を飛び出す。
彼女によると、真っ赤なルージュをしているのですぐにわかるという。
興奮を抑えきれなくて、少し小走りになる。傘は使っていたが、あまり意味は無かったかもしれない。
あと少し、というところでまた携帯電話が鳴り響いた。彼女からだろうか。
着信を見ると荒井からだった。今度はメールである。
彼には申し訳ないと僅かに思いつつ、今は無視した。本当に、彼女以外のことは頭に無かった。
やがて道路を挟んで、彼女を見つけた。
黒の、ドレスだろうか。白の刺繍がはっきりとして見える。それに、日傘の様な黒い傘。
詳しくは知らないが、一般的にはゴスロリとかいう物だと思う。
服装はともかくとして。顔立ちは、想像していた通りだった。
長い黒髪がヘッドドレスで止められ、目尻ははっきりとしている。真っ赤に塗られた唇は、ちょっと妖しく見えた。
僕と目線があうと、微笑んだ。
彼女が、何かを口にする。でも雨音で聞こえなかった。
口元を見ると・・・・・・「あ り が と う」?
この時僕は、視界の悪い道路に飛び出してしまった事を後悔した。
直後。
真横から強烈な光が襲う。それが車のヘッドライトだと気付いた時には、もう遅かった。
周りが、やけに五月蠅かった。酷い交通事故が起きたのだから、当たり前なのかも知れないけれど。
横たわる孝明に、彼女がゆっくり近付いていった。
足音は、無い。例え雨音が全て消えていたとしても、それは聞こえなかっただろう。小さいのではなく、無いのである。
息絶える直前の孝明と眼が合うと、彼女は笑みを見せた。
「私、本当に孝明クンの事大好きだったよ。嘘じゃないからね?」
孝明は答えられない。息も出来ない状態で言葉を発するのは不可能だ。
「君も私の事が好きだった、そうだよね。
だからこうすれば、ずっと一緒にいられるんだよ。ふふ」
彼女は空いている手で孝明の肢体を抱き寄せた。
その時に孝明は、ドレスの内側に髑髏を見た。そういえば髑髏っぽいアイテム・・・・・・いや、髑髏を集めるのが好きと言っていた。
「これからはずーっと一緒、だね・・・」
彼女はまた笑うと、孝明の唇に己の唇を重ねた。
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宛先 : 荒井
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本文 :
天海瑶子という子は、三年前に交通事故で亡くなっていた
だから、絶対に会おうとは考えない方が良い
気を付けろよ
-あとがき-
初めましての人は初めまして、Yukiです おはこんにちばんわ。
今回はホラー作品を目指して書いてみました。どうでしたか?
怖いのが嫌いな人はごめんなさい。表紙で怖いと思った時点でやめるべきだったと後悔しても後の祭りです。
こんなに短い文章でホラーを目指すのは、かなり難しかったです。最後以外、怖い所ないですしね。
書き上げた後、一番初めに見せたのはやはりつちのやしろ氏なわけですが・・・・・・。
彼の感想は一言、素晴らしい でした。
どうやら彼はホラーとかが好きらしいです。ごめんなさい、私にはちょっと理解が出来ない^-^;
私もホラー映画とか、そういうのは苦手です。怖い物見たさでついつい見ちゃう、程度ですかね。
今回つちのやしろ氏に表紙を描いてもらっている時に言われました。「この絵で内容がわかってしまうんじゃないか」。
その通りです。表紙の絵を見れば内容やオチがMARUWAかリング。それは私もそう思います。
じゃあそんな絵を表紙に持ってくるなよ、ってことになりますが、これは私が無理に持ってきました。
理由は、ホラーが駄目な人がいるからです。
読んで後悔した、とか 読まなきゃ良かった。って思われるのが嫌なので、内容がわかってしまってもこうしました。
ホラー好きな人はすいません。
今回のテーマは「想い違い」。孝明と瑶子の考え方の違いが現れているかと思います。
・・・でも今回はテーマなんて意識してませんでした。すいません。
今回は物語の主人公と、メインの話しに持っていくための相手。それと主人公の友人という、三人が出てきます。
私の書く短編はどうしても前者二人だけになってしまうので、今回は一つのチャレンジでもありました。
物語の軸にはならない脇役が、どの辺りで役割を果たすのか。
私にとってはそれを考えさせられる、ある意味では良い作品となりました。凄く個人的ですけどね。
では最後に。
ここまで読んで下さった方、ありがとう。
表紙や挿絵を担当してくれるつちのやしろ氏、ありがとう。
色んな大人の意見を持ってきてくれるネトゲの友人達、ありがとう。
「ありがとう」ばっかりじゃないか・・・。
それでは次回作でまた会えれば嬉しいです。
ではでは